撥水加工の洋服の洗い方やお手入れ方法をプロが解説

撥水加工のされている洋服のお手入れはどのようにしていますか。そもそも撥水加工とはどのようなものなのか、まずはその効果や特徴を知っておきましょう。
洗濯で撥水機能を落とさず、汚れはしっかり落とす効果的な洗い方を解説します。
撥水加工の効果や仕組み
撥水とは生地の表面で水を弾く機能のことです。撥水剤で生地の表面をコーティングしているため水が玉状となり転がり落ちることで内部には水が浸透しにくくなります。
撥水スプレーなどでも手軽にその効果が得られるため、自分で後から撥水加工を足すことも可能です。素材そのものが撥水するのではなく表面にコーティングしているだけなので、徐々にその効果が落ちてくるのも特徴です。
そのコーティング剤には、大きくフッ素樹脂撥水剤とシリコン系撥水剤を使用する方法があります。それぞれの特徴をまとめてみました。
■フッ素系撥水剤
生地の表面に「撥水基」と呼ばれるトゲが毛羽立った状態を作り出して水や油を弾く仕組みです。
生地の表面に付着しているだけなので擦れたり、汚れが付着するとフッ素樹脂がはがれて効果が落ちやすくなりますが、水も油も弾くことができます。一般的にこのフッ素系撥水剤を使われことが多いです。
■シリコン系撥水剤
フッ素系とは異なり繊維の表面に水となじまない膜でコーティングすることで水を弾く仕組みです。樹脂本体が油性ですので油を弾く効果まではありません。フッ素系よりも効果が持続しやすいのが長所ですが、皮革製品ではシミとなるため使用できません。
ここで理解しておきたいのが、撥水加工は水を弾く効果なので水を完全に通さないわけではないということ。そしてその撥水効果も永久的に持続するものではないため、いずれので撥水剤を使用していても定期的なお手入れが必要だということです。
撥水加工のメリットとデメリット

実際に撥水加工が施された洋服はどのようなことに役立つのでしょうか。あわせてデメリットも確認していきましょう。
撥水加工のメリット
まずは撥水加工の持つメリットから確認していきます。
- 撥水加工すると雨をはじく
- 撥水加工を施すと汚れにくい
- 防水加工と違い通気性確保し蒸れにくい
- 汗染みなどが目立ちにくい
1.撥水加工すると雨をはじく
冒頭の効果や仕組みでも説明した通り、撥水加工とは水を弾く加工ですので雨や水に濡れるシーンで活躍します。
そのためスキーウェアを始め登山などのアウトドアウェア、ダウンジャケット、コート、レインコートなどにも施されています。
2.撥水加工を施すと汚れにくい
撥水加工は弾くのは水だけではありません。汚れも弾きやすいためもし汚れてしまっても固く絞ったタオルなどで拭きとるだけで簡単に汚れを落とすことができます。
生地表面のコーティングによって汚れが染み込みにくい特徴なのでお手入れが簡単で楽になります。
ただし、油分を含んだ汚れについては先述の通り撥水剤によって弾く・弾かない特徴がありますので汚れによっては対応できないものもありますのでご注意下さい。
3.防水加工と違い通気性確保し蒸れにくい
撥水は水を弾きますが防水は「水を通さない」性質のため、塩化ビニルや合成ゴムなど生地そのものが水を通さない素材だったり、合成樹脂などで隙間ができないように埋めて加工されています。
そのため水を洋服の内側へ通すことはありませんが、布目の穴をふさいでしまったために通気性が悪く蒸れやすいという弱点を持っています。
その点、撥水加工は生地表面をコーティングしているだけで隙間は塞がれていないため空気や蒸気を通し内部が蒸れることはありません。
ここが防水加工との大きな違いでもあり、快適に着用できる点が撥水加工の最大のメリットだと言えます。
4.汗染みなどが目立ちにくい
男女問わず暑い季節になると気になる汗染みですが、こちらも水分ですので撥水加工が効いてきます。
体から出る汗を止めることできないので数々の便利グッズや対策方法はありますが、その中で「汗染み防止加工」と呼ばれる機能のある洋服があることはご存知でしょうか。
この加工は洋服の表地に撥水加工をすることで汗をかいても外側からは汗染みにならず恥ずかしい思いをすることはありません。
また汗染み専用の撥水スプレーもありますので気になる部分にスプレーを噴霧するだけで目立ちにくくする方法もあります。
撥水加工のデメリット
次にデメリットをみていきましょう。
- 完全に防水できる訳ではない
- 洗濯すると効果がなくなる
1.完全に防水できる訳ではない
メリットで紹介した蒸れにくい通気性がここではデメリットとなります。完全に布目を塞いでいるわけでも、水を通さない素材を使っているわけでもないため、水の浸透は完全には防ぐことができないからです。
大量の水、逆に霧雨のような小さい水滴の場合、隙間から水が浸透してしまうこともあります。そして撥水のコーティングが落ちてしまうと水を弾く力がなくなり、水が内部へ染み込みやすくもなります。
完全に水に濡れないようにするためには水を通さない「防水加工」のウェアが向いていますので着用する際には、シーンや目的によって使い分けることが必要と言えます。
2.洗濯すると効果がなくなる
洗濯では撥水機能が低下してしまうこともあります。考えられる原因は以下の3つです。
●洗濯で洋服が擦れることによる摩擦
摩擦でコーティングがはがれたり、フッ素系のコーティング剤なら撥水基が倒れてしまうことが原因だと考えられます。
洗濯は手洗いが一番ですが、洗濯機を使用する場合は優しく洗いあげてくれる「ドライコース」がおすすめです。また裏返しにすることや洗濯ネットを使用するのも良いでしょう。
●使用洗剤が適切でない
出来れば撥水加工専用の洗剤を使用するのがベストです。しかしそのために購入するのも…という場合は、中性の洗濯洗剤を選びましょう。
漂白剤、柔軟剤、蛍光増泊剤が含まれていないもの、粉末洗剤は避けるようにしてください。撥水効果が落ちてしまう原因となります。
●洗剤の洗い残し
洗剤が生地に残っているとこれもまた撥水効果が落ちてしまいます。すすぎは通常よりも入念に行いましょう。洗剤の溶け残りがないように前述の通り粉末洗剤の使用はおすすめしません。
撥水加工が落ちる原因

デメリットにもある撥水効果が落ちてしまう原因は洗濯以外にもあります。他の原因を考えていきましょう。
撥水加工がなくなる期間の目安
着用頻度にもよりますが、1か月~長いもので1年が目安になります。使用時や洗濯での摩耗や汚れ、洗剤、紫外線などが接触することにより撥水機能は低下します。
撥水効果を持続させるためには定期的に継続して撥水加工を行うことがおすすめですが、頻度が多すぎても反って生地を傷めてしまいます。
市販の撥水スプレーや撥水剤なども販売されているので手軽にご自身でも加工は可能ではありますが、洋服の状態をみながら施してくれるクリーニング店のプロに任せるのが一番良いでしょう。
撥水加工は雨や水洗い等で濡れるとなくなる
雨に濡れることや水洗いで徐々に撥水の効果や耐久性が失われていくこともあります。撥水効果は永久ではありませんので次第に落ちていくものです。
大雨や梅雨など雨の日の撥水加工した洋服の注意点
メリット・デメリットで挙げた通り、撥水加工は水を完全に通さないわけではありません。大雨など大量の水がかかった場合や、長時間濡れる状態は生地の隙間や縫い目などから水がしみ込んでしまう可能性があります。
また梅雨の時期は連続して着用することが多いので、着用後は水滴をしっかり落とし風通しの良い場所で乾かしておきましょう。
衣類など布製品の撥水加工を落とす方法
誤って撥水スプレーを噴霧してしまったり、それが原因で本来の効果がなくなってしまった時、急いで落としたくなる気持ちはわかります。
しかし撥水加工の特徴にもあるように撥水性は永久的に持続するものではありませんのでこれまで通り使用することや、洗濯をすることで次第に落ちてくるでしょう。
もし急いで落としたいならばステインクリーナーで落とす方法も挙げられますが、こちらは靴専用の汚れやワックスなどの油分を落とすクリーナーですので本来の使い方ではありません。
もし使用する場合は目立たない部分で試してみるなど、かえって悪化しないように慎重に行いましょう。
撥水加工の洋服の洗い方

それでは撥水加工の洋服の正しい洗い方を説明していきます。
撥水加工された洋服の洗濯表示を確認
まずは洋服の裏側に付いている洗濯表示を確認しましょう。家庭で洗濯をしても問題ないか、あわせて特記事項に注意しなければならないポイントが明記されていますので必ず確認しましょう。
![]() | 桶に40は液温は40℃を限度とし、洗濯機で洗濯できる |
![]() | 桶に手は40℃を限度に手洗い可能 |
![]() | 桶に×は家庭での洗濯禁止 |
桶に×マークが入っていないなら家庭での洗濯も可能です。
撥水加工の洋服の脱水で洗濯機が壊れる可能性も
水を吸水しない撥水加工の衣類を脱水にかけると、洗濯機にも負担がかかり故障する恐れがあります。脱水だけは洗濯機の使用は避けましょう。
撥水加工を施された服は、基本的には脱水の必要はありません。状況によって必要であればバスタオルなどで挟んで軽く水気を切る程度で大丈夫です。
撥水加工の洋服の洗濯の手順
撥水加工の洋服の洗濯は洗濯時の摩擦を減らすために手洗いがおすすめです。
洗濯機で洗う場合は「ドライコース」などのおしゃれ着洗いで使うモードがおすすめです。優しく洗うことができます。また洋服を裏返しにすること、洗濯ネットを使用するようにしましょう。
先程の洗濯表示のマークを参考にしてください。あわせて洗濯時の注意事も確認しましょう。
水の温度は洗濯表示に従いましょう。洗剤は撥水生地専用の洗剤がおすすめです。この後おすすめの洗剤を紹介します。
摩擦が撥水加工を低下させる原因になりますのでこすらず、押し洗いが基本です。もし部分的な汚れを落としたい場合は洗剤を塗布してその部分を優しく歯ブラシなどで落としましょう。
洗剤の洗い残しも撥水効果が落ちてしまいます。洗う時以上の時間をかけてしっかりすすぐことです。フード付きの場合はフードに洗剤がたまりやすいので隅々まで洗剤を落としましょう。
通常の洗濯では脱水の工程になりますが、撥水加工の洋服は水を含まないためタオルドライや水滴を拭く程度で大丈夫です。
形を整えて風通しの良い日陰で干しましょう。
撥水加工の洋服におすすめの洗剤や柔軟剤
洗濯による機能低下を防ぐには撥水加工専用の洗剤が一番おすすめです。しかし使用頻度が低い場合はわざわざ専用洗剤を買わなくても大丈夫です。その場合は中性の洗濯洗剤でも洗えますのでご安心下さい。
ただし注意したいのはこの洗剤に含まれている成分です。中性洗剤でも柔軟成分、漂白剤、蛍光増白剤などが配合されているものもありますので細かく確認しましょう。
これらは撥水加工の効果を低下させる原因にとなります。特に柔軟剤は水を弾くコーティングの上に柔軟剤の膜を張ることになり効果が半減してしまいます。
万が一使用してしまった場合はもう一度水洗いをしてしっかりすすぎ柔軟剤を落として下さい。
■NIKWAX テックウォッシュ

出典「Amazon」
撥水生地用洗濯洗剤です。ウェアの撥水コーティングを傷つけずに付いた汚れのみをしっかり落とします。
レインウェア・ジャケット・スキーウェア・フリースなどの衣類だけでなく、テントなどにも使えますのでこれ一つで幅広く使えます。
撥水加工の洋服に漂白剤を使用しても良いか?
柔軟剤と同様、漂白剤も撥水機能を低下させてしまうので、使用は避けましょう。使用する洗剤によっては柔軟剤や漂白剤が含まれているものもあるので、使用する洗剤選びは慎重にしてください。
漂白剤の使用の可・不可については洗濯表示にも記されていますのであわせて確認しましょう。
![]() | 塩素系及び酸素系の漂白剤を使用可能 |
![]() | 塩素系及び酸素系漂白剤の使用禁止 |
![]() | 酸素系漂白剤は使用可能だが塩素系漂白剤は使用禁止 |
撥水加工のお手入れ方法
着用することで起きる摩擦や、紫外線にあてたりすることで効果が落ちてしまうのは避けられません。お洗濯以外の日頃からのお手入れ方法を紹介します。
撥水加工を長持ちさせる普段のお手入れ方法
汚れがついたらすぐに落とすことです。撥水のコーティングの上に汚れが付着すると効果が落ちます。
洋服によっては着用頻度が少ないものや、数時間しか着ていないことも考えられますので毎回洗濯しなくても汚れた部分だけ固く絞ったタオルなどで拭きとってあげましょう。
また水に濡れたらそのままにせず、風通しの良い場所でしっかり乾かすことも心がけて下さい。
撥水加工をドライヤーで熱処理し復活させる
ドライヤーの熱で復活させることができます。特にフッ素系のコーティング剤の場合は摩擦などによって倒れてしまった基撥水を熱で起こしてあげることで機能が回復します。
ドライヤー以外でもアイロンの熱などでも可能ですが、アイロンを使用できるかどうかは洗濯表示に従いましょう。
撥水加工を自宅でスプレー加工する方法と注意点
スプレーを使用する際、事前に目立たないところでシミや変色がないか確認をしてから行いましょう。また効果的に撥水加工をするために以下のことに注意して下さい。
- 20cmほど離してスプレーする
- 屋外で使用する
- 完全に乾燥させる
■20cmほど離してスプレーする
スプレーしたい服から約20cm離してムラにならないようにまんべんなくスプレーしましょう。
■屋外で使用する
噴霧したスプレーを吸い込むと危険なので事故防止のため風通しの良い屋外で使用しましょう。人のいない場所で風向きにも十分気をつけましょう。
■完全に乾燥させる
スプレー後は風通しの良い屋外で完全に乾かしましょう。
衣類の撥水加工はクリーニングがおすすめ

市販の撥水スプレーなら安価で手軽に家庭でもできますが、実際のクリーニング店ではどのような加工をしているのでしょうか。その違いを確認していきましょう。
撥水加工はクリーニングをおすすめする理由
クリーニング店とはまず使用する撥水剤が大きく異なります。市販の撥水スプレーと比べ粒子が細かいため繊維の奥まで浸透しやすく、そのコーティング剤の濃度も濃くできています。
市販の撥水スプレーで噴霧した場合、どうしてもムラになりやすくフッ素系樹脂が一か所にたまるとシミになってしまうこともあります。
そしてスプレーを誤って吸い込むことでの事故も起きていますので安全面でもプロにお任せする方が安心です。
スプレー後の乾燥の工程でもその差がでます。家庭で行うと自然乾燥になりますが、クリーニング店では一般的に熱処理を加えて乾燥させます。そうすることによってコーティング剤を定着して効果が長持ちするのです。
撥水加工のためにスプレー缶の購入に自身で作業する手間と考えると、クリーニング店にお願いした方が撥水効果も高く、安全でおすすめです。
クリーニングで撥水加工する際の料金目安
撥水加工をするには汚れのないきれいな状態で行わないと効果的ではないため、クリーニング店はオプションサービスとして行っています。
そのため基本的にはクリーニングとセットとなり、撥水加工だけを受け付けているお店はほとんどありません。
撥水加工のオプションは洋服の種類や素材、お店によってもまちまちですが目安は500円~1,500円です。
クリーニングで撥水加工する際の日数目安
目安として約3~5日の期間が必要になります。余裕を持って依頼しましょう。どうしても急ぎの場合は事前にクリーニング店に相談して下さい。